年収400万で家が買える?リアルなローン戦略とは

年収400万円でマイホーム購入は夢物語ではありません。現実的な予算設定、適切な住宅ローン選び、そして賢い資金計画が不可欠です。このガイドは、年収400万円の方が日本で家を購入するための具体的な戦略と、知っておくべき重要なポイントを詳細に解説します。

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年収400万円からの住宅購入の現実

年収400万円という数字を聞くと、マイホーム購入は難しいと感じる方もいるかもしれません。しかし、日本の住宅市場と住宅ローン制度を深く理解すれば、この収入レベルでも十分に家を購入する道は開かれています。重要なのは、単に「家が買えるか」という二者択一ではなく、「どのような家を、どのようなローンで、どのように返済していくか」という具体的な戦略を立てることです。

多くの金融機関が住宅ローン審査で重視するのは、年収に占める年間返済額の割合、いわゆる「返済負担率」です。一般的に、無理のない返済負担率は25%から30%以内とされています。年収400万円の場合、手取りは概ね300万円前後となることが多いですが、ローン審査では額面年収が基準となります。この返済負担率を基に、借り入れ可能額の目安を把握することが、現実的な住宅購入計画の第一歩となります。

また、住宅価格は地域によって大きく異なります。都心部では高額になりがちですが、地方都市や郊外であれば、年収400万円でも手が届く範囲の物件が多数存在します。新築にこだわるか、中古も視野に入れるか、マンションか戸建てかといった選択肢も、購入の実現可能性に大きく影響します。安易な情報に惑わされず、自身のライフスタイルと照らし合わせた上で、冷静な判断が求められます。

住宅ローンの基礎知識と借り入れ可能額の目安

住宅ローンは、多くの人にとって人生で最も大きな借り入れとなるでしょう。その仕組みを理解し、自身の返済能力に見合った額を借り入れることが、住宅購入後の安定した生活を送る上で不可欠です。

  1. 住宅ローンの種類
  2. 日本には主に「変動金利型」と「固定金利型(全期間固定型、固定期間選択型)」の3種類の金利タイプがあります。
  • 変動金利型: 金融情勢に応じて金利が変動します。一般的に固定金利型よりも当初の金利が低く設定されており、返済額を抑えやすいというメリットがあります。しかし、将来的に金利が上昇するリスクがあり、返済額が増加する可能性も考慮しなければなりません。多くの金融機関では、金利が上昇しても毎月の返済額は5年間は変わらず、その後も1.25倍までしか増えないという「5年ルール」「125%ルール」が適用されることが多いですが、未払い利息が発生するリスクも存在します。
  • 全期間固定金利型: 借り入れから完済まで金利が固定されます。市場金利の変動に左右されず、毎月の返済額が変わらないため、返済計画が立てやすいという大きな安心感があります。変動金利型よりも当初の金利は高めに設定されていますが、将来の金利上昇リスクを完全に回避できます。
  • 固定期間選択型: 3年、5年、10年といった特定の期間だけ金利が固定され、期間終了後に再度金利タイプを選択するものです。当初固定期間中は金利が変動しない安心感があり、変動金利型と全期間固定金利型の中間的な特徴を持ちます。しかし、固定期間終了後に金利が上昇するリスクや、金利再選択時の手続きの手間があります。
  1. 借り入れ可能額の目安
  2. 金融機関が住宅ローンの審査で最も重視するのは、年収に占める年間返済額の割合である「返済負担率」です。多くの金融機関は、返済負担率が年収の30%から35%以内(金融機関によっては20%台後半)を目安としています。
  3. 年収400万円の場合、返済負担率30%と仮定すると、年間返済額の上限は約120万円となります。これを月々に換算すると、約10万円です。この月々10万円という返済額から、金利と返済期間に応じて借り入れ可能な上限額を算出できます。

表:年収400万円での借り入れ可能額の目安(返済負担率30%の場合

金利(年利)返済期間30年(万円)返済期間35年(万円)
0.50%約3,380約3,850
1.00%約3,160約3,590
1.50%約2,960約3,360
2.00%約2,780約3,140

*上記はあくまで目安であり、金融機関の審査基準、保証料、諸費用などにより変動します。

*年収倍率で考えると、年収400万円の人が3000万円を借りる場合、年収の7.5倍となります。一般的に年収倍率は5倍から7倍が無理のない範囲とされていますが、金融機関によっては8倍以上も可能となる場合があります。

住宅購入にかかる諸費用と頭金の重要性

家を購入する際には、物件価格以外にも様々な諸費用が発生します。これらの費用を考慮に入れず計画を進めると、予算オーバーや資金不足に陥る可能性があります。

  1. 住宅購入時の主な諸費用
  2. 住宅購入時には、物件価格の他に一般的に6%から10%程度の諸費用がかかると言われています。
  • 印紙税: 売買契約書や住宅ローン契約書に貼付する税金です。
  • 登録免許税: 不動産の登記(所有権移転登記や抵当権設定登記)にかかる税金です。
  • 不動産取得税: 不動産を取得した際に一度だけかかる税金です。
  • 司法書士報酬: 登記手続きを司法書士に依頼するための費用です。
  • 住宅ローン保証料: 住宅ローンの保証会社に支払う費用です。金融機関によっては不要な場合もあります。
  • 団体信用生命保険料: 住宅ローンの返済中に契約者が死亡または高度障害になった場合に、保険金でローンが完済される保険です。多くの住宅ローンでは加入が必須で、保険料は金利に含まれるケースが多いです。
  • 火災保険料・地震保険料: 住宅の損害に備える保険です。加入が義務付けられているわけではありませんが、万一の際に生活を守るために加入が強く推奨されます。
  • 仲介手数料: 不動産会社を通して物件を購入した場合に支払う費用です。物件価格によって上限が定められています(例:400万円超の場合、物件価格の3%+6万円に消費税)。
  • 引っ越し費用: 新居への引っ越しにかかる費用です。
  • 固定資産税・都市計画税の日割り清算金: その年の税金の一部を売主へ支払う費用です。
  • これらの諸費用は、物件価格とは別に現金で用意する必要があることがほとんどです。
  1. 頭金の重要性
  2. 頭金とは、住宅購入費用の一部として自己資金で支払うお金のことです。頭金が多いほど、住宅ローンの借り入れ額を減らすことができるため、毎月の返済額を抑えたり、総返済額を減らしたりするメリットがあります。
  • 審査への影響: 頭金が多いほど、金融機関から見て返済能力が高いと判断されやすく、審査に通りやすくなる可能性があります。
  • 金利優遇: 頭金の割合が大きいと、金融機関が提供する金利優遇を受けられる場合があります。
  • 将来のリスク軽減: 借り入れ額が少ないため、金利上昇リスクの影響を受けにくく、万一の際に家を売却する際も売却益が出やすくなるなど、将来的なリスクを軽減できます。
  • かつては住宅価格の2割程度の頭金が理想とされていましたが、最近では「頭金なし」や「頭金少なめ」でも組める住宅ローンが増えています。しかし、年収400万円で無理のない返済計画を立てるためには、できるだけ頭金を用意することが賢明な戦略と言えるでしょう。諸費用分は最低限現金で用意し、それに加えて物件価格の5%から10%程度の頭金を目指すのが現実的な目標です。

無理のない返済計画を立てるためのポイント

住宅ローンは長期にわたる返済です。無理のない計画を立てることで、購入後の生活が圧迫されるのを防ぎ、安心して暮らすことができます。

  1. 返済負担率を厳しく設定する
  2. 金融機関が設定する返済負担率の上限(30%~35%)は、あくまで「借りられる額」の目安であり、「無理なく返せる額」とは限りません。年収400万円の場合、手取り収入は年間約300万円程度になるため、税金や社会保険料を差し引いた実質的な手取り収入から考えると、返済負担率は20%から25%程度に抑えることを強く推奨します。これにより、教育費や老後資金の貯蓄、趣味やレジャー費といった生活費に余裕が生まれます。
  3. 金利タイプのリスクとリターンを理解する
  4. 変動金利型は当初の金利が低い魅力がありますが、将来の金利上昇リスクを負います。金利が大幅に上昇した場合、月々の返済額が1.25倍に増える「125%ルール」が適用されても、未払い利息が発生し、最終的な返済期間が延びたり、一括返済を求められたりするリスクがあります。金利上昇に不安を感じる場合は、多少金利が高くても全期間固定金利型を選択することで、将来の安心を買うことができます。自身の金利変動への許容度を考慮し、慎重に選択しましょう。
  5. 返済期間は慎重に選ぶ
  6. 返済期間を長くすれば毎月の返済額は減りますが、総返済額は増えます。例えば、2500万円を金利1%で借り入れた場合、30年返済では総返済額約2890万円、月々約8万円ですが、35年返済では総返済額約3010万円、月々約7.1万円となり、総返済額が120万円も増えます。定年退職時の年齢も考慮し、無理のない範囲でできるだけ短い期間での完済を目指すのが理想です。
  7. 繰り上げ返済の活用を検討する
  8. 繰り上げ返済は、毎月の返済とは別に、元金の一部または全部を前倒しで返済することです。これにより、支払う利息の総額を減らすことができます。特にローン期間の早い段階で行う繰り上げ返済は、利息軽減効果が大きいです。手元にまとまった資金ができた際には、繰り上げ返済を積極的に検討しましょう。
  9. 住宅ローン減税(住宅ローン控除)を理解する
  10. 住宅ローン減税は、年末のローン残高に応じて所得税や住民税から控除される制度です。これにより、実質的な返済負担を軽減できます。制度の適用要件や控除額は年によって変動するため、最新の情報を確認し、適用されるかを確認しましょう。これは、家計の負担を軽減する上で非常に大きな助けとなります。

物件選びの賢い戦略

年収400万円で家を購入する際、どのような物件を選ぶかが成功の鍵を握ります。現実的な予算とニーズを見極めることが重要です。

  1. 新築か中古か
  • 新築戸建て・マンション: 新築は設備が新しく、修繕費がしばらくかからないというメリットがあります。しかし、価格は中古よりも高くなる傾向があり、年収400万円の予算では選択肢が限られる可能性があります。
  • 中古戸建て・マンション: 中古物件は新築に比べて価格が手頃で、立地や広さの選択肢が広がるメリットがあります。特に中古マンションは、管理費や修繕積立金が発生しますが、セキュリティや共用施設の充実度が魅力です。中古戸建ては、リノベーションによって自分好みの空間を創れる自由度があります。ただし、購入後の修繕費用やリノベーション費用も考慮に入れる必要があります。
  1. 立地と広さのバランス
  2. 都心部の利便性の高い場所は地価が高く、物件価格も高額です。年収400万円の予算では、都心から少し離れた郊外や、公共交通機関のアクセスが良い地方都市に目を向けることで、予算内でより良い条件の物件を見つけられる可能性が高まります。通勤時間や生活の利便性、将来的な資産価値なども考慮し、立地と広さのバランスを考えましょう。
  3. 物件の状態とリノベーション費用
  4. 中古物件を検討する際は、物件の築年数だけでなく、構造や設備の劣化状況を細かく確認することが重要です。必要に応じて、ホームインスペクション(住宅診断)の専門家を依頼し、建物の状態を客観的に評価してもらうことを強く推奨します。これにより、購入後に発生しうる大規模な修繕費用を事前に把握し、予算に組み込むことができます。リノベーションを前提とする場合も、その費用を物件価格に上乗せして総額で予算内に収まるかを確認しましょう。
  5. 固定資産税と都市計画税の把握
  6. 家を持つと毎年固定資産税と都市計画税が発生します。これらの税金は物件の評価額によって異なり、地域や物件の種類によって大きく変動します。購入を検討している物件について、年間のおおよその税額を不動産会社に確認し、毎月の家計に組み込めるかを確認しておくことが大切です。

住宅購入に向けた具体的なステップ

年収400万円で住宅購入を実現するためのロードマップは以下の通りです。

ステップ1:情報収集と予算の把握

まずはインターネットや住宅情報誌で、希望するエリアの物件相場や住宅ローンの金利情報を広く集めます。自身の年収で借りられるローン額の目安(前述の表を参照)と、準備できる頭金や諸費用の現金を明確にし、現実的な予算を設定します。

ステップ2:金融機関への相談と事前審査

複数の金融機関(銀行、信用金庫、フラット35など)に相談し、自身の条件でどの程度のローンが組めるのか、どのような金利タイプが最適かのアドバイスを受けます。この段階で「事前審査」を受けることで、おおよその借り入れ可能額を把握し、物件選びの範囲を絞り込むことができます。事前審査は信用情報に影響を与えにくいソフトな審査です。

ステップ3:物件探しと現地見学

設定した予算と希望条件に合う物件を本格的に探し始めます。気になる物件が見つかったら、必ず現地に足を運び、日当たり、騒音、周辺環境、交通の便、建物の状態などを自分の目で確認します。中古物件の場合は、可能であれば複数回訪問したり、異なる時間帯に訪れたりして、様々な角度から確認することが重要です。

ステップ4:購入申し込みと売買契約

購入したい物件が決まったら、売主に対して購入の意思表示と価格交渉を行います。価格や条件が合意に至れば、不動産売買契約を締結します。この際、手付金を支払うのが一般的です。手付金は通常、物件価格の5%から10%程度です。

ステップ5:住宅ローンの本審査

売買契約を締結したら、いよいよ住宅ローンの本審査に申し込みます。事前審査よりも詳細な審査が行われ、収入証明や物件資料などが必要となります。この審査に通れば、住宅ローンの借り入れが正式に決定します。

ステップ6:引き渡しと残金決済

住宅ローンの融資実行を受け、売主への残金支払い、諸費用(登記費用、仲介手数料など)の精算を行います。所有権移転登記を司法書士に依頼し、鍵を受け取れば、晴れてマイホームの引き渡しが完了します。

住宅購入後の家計管理と注意点

家を購入して終わりではありません。購入後の家計管理を怠ると、せっかくのマイホームが負担になってしまう可能性もあります。

  1. 毎年の税金と維持費を予算に組み込む
  2. 家を持つと、毎年固定資産税と都市計画税が発生します。また、戸建てであれば外壁塗装や屋根の修繕、給湯器の交換など、10年~20年に一度はまとまった修繕費用が必要です。マンションであれば、毎月の管理費と修繕積立金が発生します。これらの費用を毎月の家計にしっかりと組み込み、計画的に積み立てておくことが重要です。
  3. ライフイベントによる家計変動を想定する
  4. 住宅ローン返済中に、出産、子どもの教育費、転職、病気、介護など、様々なライフイベントが発生する可能性があります。これらのイベントによって収入が減少したり、支出が増加したりする可能性をあらかじめ想定し、ローン返済に影響が出ないよう、貯蓄を継続する、または返済額を見直せるような余裕のある計画を立てておくことが賢明です。
  5. 金利変動リスクへの備え(変動金利型の場合)
  6. 変動金利型を選んだ場合、将来の金利上昇リスクに対して備えが必要です。もし金利が上昇し、返済額が増加した場合でも対応できるよう、少し多めに貯蓄をしておく、繰り上げ返済を積極的に行う、または金利が上昇した際に固定金利型への借り換えを検討するなどの対策を考えておきましょう。
  7. 年収400万円でも、夢のマイホームは十分に手が届く範囲にあります。大切なのは、現実を直視し、無理のない範囲で賢い選択を重ねていくことです。綿密な計画と情報収集、そして冷静な判断が、あなたの住宅購入を成功へと導くでしょう。

参考文献(APA7)

国土交通省. (2024). 住宅・土地統計調査. https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr_000013.html

中央労働金庫. (2025). 無担保ローン金利情報. https://www.chuorokin.jp/loan/unsecured/

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日本政策投資銀行. (2025). 若年層住宅取得支援制度. https://www.dbj.jp/pdf/information/yojin/iten/jutaku2025.pdf